ふれあい

141126

コンコン。控えめなノックで事務室のわかこが入ってきた。もう叩き方のくせを把握したので、彼女がやって来るとすぐに分かる。
小柄で、いつもひらひらしたスカートとリボンや飾りが付いたローヒールを履いていて、首にはふわふわの巻物をして、同世代だけど私とはまったくタイプがちがう、でも気が合うわかこ。
物腰がおだやかで、誰にでも親切で、でもたまに多忙になるとやさぐれて、私のオフィスを訪れては、そっと愚痴をこぼし毒を吐いて帰っていくわかこ。
そんな彼女が、いつものように小さなノックをして入ってきた。
「れいこ、疲れた。あめちゃんちょうだい」
と言って、センターテーブルの上の菓子器に手をのばし、椅子に腰かけた。
「助教のSさんが事務室に来てん。風邪ひいてフラフラやったよ。私もうつりそう。れいこも気をつけて」
「わかこ、私は風邪は大丈夫なんだけど、肩が痛くて痛くて、首がまわらなくなってきた」
「PCにばかり向かってるからやん。じゃあ、ここに座って」
うながされるまま、センターテーブルのチェアに腰をかけると、わかこはそっとうしろにまわり、私の肩をもみ始めた。
か細い指先が、ゆっくりと私の肩を押して、その柔らかい感触がじんわりと伝わってくる。
力は強くないけれど、優しい動きがしみじみとした温かみをもって皮膚の内側にしみ込んでくる。
「うわぁ、どんどん癒やされてく」
「れいこ、最近つかれてるん?」
「うん、いろいろと生活に変化があってね」
「そうか、あんまり欠勤すると、社会保険が適用されなくなるからね、できるだけ出勤するのよ」
「はあい」
「れいこはいつかここを羽ばたいていくような気がしてるけど、今はまだここにいてね」
「へ?」
「れいこが去ったらホームページの記事を書く人がいなくなって困るから、次の人を見つけてから去ってね」
「あ、わかこ、まだわたしやめないから。10月と11月はたくさん休んだけど、12月からまたいっぱい働くから」
「そうか。よかった」
こうして話しているあいだも、わかこはしずかに10本の指先を私の肩に押し当てて、一定のペースで動かしていく。首筋から頭へと移動したときには、私の心はすっかりほぐれてしまった。
秋のはじめから最近にかけて、私の身と心は大学から少し離れたところにあった。
冬を迎えようとしている今、暮しは徐々に落ち着きを取り戻し、仕事ともきちんと向き合えるようになってきた。いまここ。
わかこは、そんな私の様子を、そっと隣の事務室から見守っていたようだ。
「わかこ、本当にありがとう。わかこの優しさがいっぱい伝わってきたよ」
「れいこ、そうはいってもまだまだ肩がガチガチよ。いちど整体とかに行ったほうがいいかも」
「うん、そうする」
「じゃあ、またね」
「ありがとう」
ささやかなふれあいが今の私にとっては、かけがえのない宝物だ。
この人たちのために心を砕き、時間を提供し、行動したい。
そんな人が私にはいる。それで十分だ。
今年の冬はあたたかくなりそうだ。

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