本を貸してください

141021

先週、鈴やで今年最初の熱燗をちびちび呑んでたら、板前のもんちゃんが奥の物置きから何かを出してきて、
「これよかったら貸してあげますよ」
と、手渡してくれた。文庫本だった。
『トリツカレ男』という小説で、もんちゃん、この本に出てくるジュゼッペというトリツカレ男が好きなんだそうだ。
「なんにでもとりつかれるんですよ。そんで、次々に色んなものにとりつかれるんです」
「へえ。もんちゃん、トリツカレ男に共感してるんじゃないの?」
「そうなんですよ」
最近、もんちゃんはおでんの出汁と具の組み合わせに凝っている。
さっそく持ち帰って読み始めた。吉田戦車の漫画のようなのをイメージしていたら、ぜんぜん違った。宵のうちに一気に読み終えてしまった。
トリツカレ男は、さまざまなトリツカレ遍歴の末、恋に取り憑かれてしまったのだ。
その後の彼の行動たるや、どれもこれも私には涙なしには読めないほどの愛、愛、愛にみちあふれた展開で、胸をキュンキュンせずにはおれなかった。舞台設定やディテールは異国であり非現実であり、石と煉瓦と雪と街灯の世界であり、童話でありかつ心あたたまる恋物語であった。
よい本を読んだら、誰かと感想を共有したくなる。
そんなとき、貸してくれた人がいると、躊躇せずに感想を伝えられるから便利だ。オンラインで伝えられるメッセンジャーも便利だ。
「ジュゼッペ〜 めっちゃおもしろかった〜 うるうるした〜 ありがとう〜」
「ホップ!ステップ!ジャンプ!」
私の読後の妙なテンションにつきあってくれるもんちゃん、さすがだ。
「ペチカ〜 ありがとね〜 また店に持ってくるね〜」
「あげますよ。たまに読んであげてください」
ということで、思いがけずプレゼントしてもらった。
人から本を貸りるって、とても良いな、と思った。
元来、私は孤独が嫌いで、孤独になれない性分なので、本を読むのは好きだけど、孤独なのが苦手だった。
だから人から本を借りると、その人と一緒に本を読んでいる気持ちになれて、寂しくないことが分かった。これは収穫だ。
もっともっと、人から本を借りたい、と思った。
どうしたら良いだろう。
本を貸すのが嫌な人も多いだろう。感想を共有するのが面倒という人もいるかもしれない。
でも、もんちゃんみたいな人もいるだろう。
これから呼びかけていこう。色んな人に。友達に、職場の人に。
私に本を貸してください。
お気に入りの本を、私に読ませたい本を教えてください。
できれば手渡しで貸してください。くれなくてもいいです。ちゃんと返しますから。
アマゾンのリンクでもいいです。
でもやっぱり手渡しで貸してほしいです。
本を貸してください。

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