風は秋色

141007

「れいこちゃ〜ん。おはよう」

黄色と緑の格子の着物をまとったゆきちゃんが、家に入ってくる。朝の光に包まれて、柔らかいオーラを放っている。 今日は我が家を使ったイベントがおこなわれる日。ゆきちゃんが主宰する「おむつなし育児研究会京都サロン」の研修会。

定刻の10時になって、わらわらと参加者の女性がやってくる。ゆきちゃん以外は初対面の人たちだ。知らない人が我が家をイベント会場として利用する。不思議で面白い。

11時すぎ、盛り上がっている研修会をあとにしてクルマで吉田に向かう。今日のランチにベジタリアンのお弁当をハコブキッチンにお願いしたので、さっこが作業している台所に取りに行く。

「さっこちゃ〜ん。おはよう」

ゆきちゃんの真似をしてインターフォンで挨拶をし、庭を横切り玄関に向かう。半年前まで住んでいた家。今は、さっこが借り主で私が大家さん。家の一室は、まだ私の荷物置き場になっていて、ハコキチにはよくご飯やお菓子の作成をお願いしているので頻繁に通っている。たまに遊んだり、さっこのコイバナで盛り上がったりもする。不思議で面白い関係。

「できてますよ〜♩」

と美しく整列したお弁当を見せてくれた。

「あれ、1個足りないよ。9つ頼んだよ」

「ええー!(メールを見返して)ほんとだ…す、すいません」

「まあいいよ。私の分は別にいらないし」

「あの、お肉っぽいので良かったら、別に作ってあるのを急いで詰めます(アセアセ)」

「わーい、ぜひそうして〜。私はベジタリアン興味ないから(ニコニコ)。待ってるあいだにストーブをクルマに積んでくるね」

荷物置き場に保管していたアラジンのストーブをクルマに運んだ。その間に、さっこはあっというまに私のための即席弁当を用意してくれた。春雨とひき肉炒めにご飯にサラダにぶどう。きっと、はてなのまかないの一部なのだろうと、ニヤニヤしながら受けとった。

さっこに別れを告げ、庭を再び横切って帰るとき、ほんの少し湿った想いが胸をよぎる。胡桃の木が葉を揺らしている。6年前に息子が産まれたとき、夫の友人のタケムラくんが苗を植えた。今では電線に引っかからんばかりの大木に育っている。ホームセンターで買った250円のアイビーが、今では味気なかったコンクリの塀を覆って良い感じに緑の壁を作っている。

この家には濃くてせつなくて複雑な味わいの思い出が詰まってる。でも、いちいち戻って来るたびにセンチメンタルな想いにかられてるわけじゃない。ほんのちょっとだけ、視界に入ってくる「思い出し誘発アイテム」によって、胸の奥がチクッとなるだけだ。 幸いいつもさっこが笑顔で迎えてくれて、持ち主の思惑などおかまいなしに生長する植物たちがいて、お気に入りの毛布やストーブやセーターたちがおとなしく出番を待っているので、心安らかに通うことができる。

お弁当を抱えて戻ると、明るい女性たちと小さな子どもの笑い声が廊下まで響いている。どうやらイベントはうまく進んでいるようだ。

さっこのお弁当はとても好評だった。メインの豆腐ハンバーグがすこぶる美味しいとのこと。次回は私も食べるぞ、と思いつつ、はてな勤務時代に好物だった春雨炒めを頬張った。ごま油の香りが、またあやうくセンチメンタルを誘発しかけるも、明るいゆきちゃんの声でおし込めることができた。

ベランダからは秋の風。空の向こうでは、かつて愛した人たちがそれぞれの場所で活動していることだろう。

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