結婚式

140624

「来週の火曜日、結婚式に参列してもらえませんか?」

先週末、大学時代に入っていたヨット部のひとつ下の後輩から電話があった。

急な知らせに驚いたが、母親に重い病が見つかり予定を繰り上げたのだという。

披露宴はなく、親族とわずかな友人だけを招いて式だけをおこなうとのこと。急きょ休みを取って、大阪に向かった。

京阪電車に乗って天満橋で降り、谷町線に乗り継いで、阿倍野駅で下車した。地上にあがると、かつて訪れた阿倍野とは全く異なるモダンな都市の風景が広がっていた。

少し歩くと雰囲気が変わった。静かな住宅街のなかでひときわ落ち着いた佇まいの建物があった。カトリック阿倍野教会。屋根の向こうには、いっとき話題となったハルカスがそびえている。

「れいこちゃん、れいこちゃん」 入口で懐かしい顔が手をふる。同期だったはなちゃんだ。

新婦側で招かれたのは、私と彼女ともうひとりだけだという。 質素な待合室で、教会の信者とおぼしき人たちに昆布茶とお菓子で接待され、式までの時間を過ごした。

開始予定から15分ほど遅れて案内があり、礼拝堂へ移動した。

肩を出したシンプルなウェディングドレスを身にまとった彼女が、腰の曲がったお父さんと腕を組んで入場してきた。いつもながら、この光景をまのあたりにすると、一気に涙腺の結界が解けてしまう。

祈り、賛美歌、聖書の朗読。かつて通っていた教会のミサを思い出した。

静寂のなか、透き通った空気が礼拝堂を包む。木製の大きな十字架が飾られた白壁に天窓から陽光が差し込む。すべてが神聖で荘厳だ。ただそれらと共にいるだけで、厳粛な気持ちになる。

黒人のジョニー神父は気さくな人だった。分かりやすい言葉と大きな声で説教をおこない、二人に対し、結婚の意思を問うた。

「なぜ結婚するのですか?皆がするからですか?両親を喜ばせるためですか?何のために二人になるのですか?たくさんの人が離婚する時代です。けれどこの教会で結婚した二人は、別れてはならない。あなたたちは真の夫婦として添い遂げるつもりですか?」

誰もが黙っていた。誰もが神妙な面持ちだった。

最後の確認を経て、新郎新婦は夫婦の誓いをとなえ、キリストの名のもと真の夫婦となった。

教会の外に出て、全員で記念写真を撮った。青空に正午の陽射し。屋根の十字架が映える。京都とは違う、大阪の陽気だ。ハワイのようだ。皆が笑っていた。

「とても良い式だったね」教会をあとにして、住宅街を歩きながらはなちゃんが言った。
「そうだね。余計なものがないぶん、本当の結婚式だったね」と私は言った。
「花嫁姿、美しかったね」と、はなちゃん。
「花嫁って、やっぱり凄いね。結婚式は、やっぱり凄いね」と、私。

ジョニー神父の話を聞いていたとき、なぜ人は結婚をするのだろう、と考えていた。

キリスト教、カトリックでは一生涯、一人の伴侶と共に生きることが定められている。少なくともこの日本においても、法律のもと一夫一婦制がしかれており、多くの人たちが結婚し、死ぬまで同じ人と共に生きる。

なぜなのだろう。なぜそのようなことが決まっているのだろう。

整然と並んだ木の椅子に腰かけて、十字架を見上げ、賛美歌をうたい、祈祷文を口にしながらも、なぜ、なぜと私は私に問い続けた。 式が終わっても、答えを見出せなかった。

新婦はとても美しかった。

10年前、彼女には婚約者がいた。ヨット部の同期で私も仲のよい男の子だった。あと数ヶ月で結婚、という時期に、とつぜん彼は脳疾患で倒れ、入院し、そのまま息をひきとった。

人生の全てが狂ってしまった彼女にとっては、暗いトンネルをさまようような日々だったろう。

その後、彼女は一人の長い時期を経て、趣味のランニングを通してパートナーと出逢い、今日を迎えた。

帰りの電車に揺られながら、式で配られたリーフレットの最終頁に書かれた二人のメッセージを読んだ。新郎が徹夜で考えたのだという。

「私たちはともに40代半ばで初めて夫婦になりました。

同じ世代のご夫婦では、すでに子供が成人している方もいるかもしれません。個人を大事にする今の時代において、夫婦でいることの必要性を疑問視する方々もいると思います。

でも私たちはこうして夫婦になる道を選びました。

夫婦になるからには、いつも互いへの感謝を忘れず、互いに思いやりをもって支え合い、互いに家族を大切にしたいと思います。そして、人生の最期を迎える時には、相手に素直に「ありがとう」と言える夫婦でありたいと思っています。」

過酷な10年を乗り越え、伴侶を得た彼女にとっては、結婚の定義など必要ないのかもしれない。ただ、共に生き、心を支えてくれるパートナーが欲しかった。その人を遂に見つけた。だから結婚する、それだけなのだろう。

彼女の結婚を心から祝いたい。

自分自身の、自分への問いかけは、まだ続いている。

私にとって結婚とは何だったのか。

これから誰かを愛するとしたら、どのような愛し方をし、どのような関係を築きたいのか。

答えがみつかるかどうかは、わからない。

大阪から京都へ。車窓の向こうからせまっては飛び去ってゆく風景をずっとみていた。

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